いつみが、俺の方へ近づく。

……どうして今まで気づかなかったんだろうか。



「機会なんていくらでも自分で作りゃあ良い。

……作れねえなら、俺が作ってやる」



涼しげな瞳はいつだって優しかった。

優しくて、だけどその優しさに溺れてしまうのが怖くて、いつも目を背けていたのは俺の方で。



「俺にはやりたいことがあるんだよ。

……そのために、俺は王学に入るって決めてる」



「……王学?」



「お前も知ってるだろ。世間から注目されてるあの学校なら、俺の目的も達成できるかもしれねえからな。

……だからお前も一緒に来い。あの学校の生徒会選出方式は知ってるだろ」



王学の、生徒会選出方式。

生徒会長になれるのは3年生だけ。2年間の成績の中で最も成績の良かった生徒がなれる役職。




理事長がピックアップした候補者リストの中から、生徒会長自ら生徒会メンバーを全員選び出すという異例の生徒会選出方式。

生徒会に選ばれたら断ることはできないが、その分、生徒会長が自ら信頼の置ける相手を選ぶ。



「お前が本気で勉強すれば、また成績戻せるだろ。

……そのまま王学に入れば間違いなく、お前は生徒会の候補者リストの中に上がる」



「……でもお前そもそも受かってねえじゃん。

つーか、生徒会長が選ぶんだとしたら、お前も俺も選ばれるかわかんねーし」



「選ばれるようにするんだよ。

……俺が2年になった時は、新しい生徒会長にお前も1年で生徒会に入れるように頭下げてやる」



「………」



「だから一緒に来い。

……俺は、勝てねえ賭けなんかしねえんだよ」



ふざけてると思った。

いつみと一緒に行ったって、何かできるわけじゃねーのに。それなのに「ついてこい」って意味を孕んだそれを聞いたら、不思議と大丈夫だと思えた。