「莉央」
「………」
「正直なことを言ってやる。
お前は俺にあの日、『欲しいもん全部持ってる』って言ったな。……でもそれはお前の勘違いだ」
まっすぐに向けられた瞳。
相変わらず涼しげで、すっかり息を整え終えたいつみ。その姿はあの日と同じで、やっぱり余裕げだった。──息を切らしてたのが嘘みたいに。
「欲しいもんなら、いくらでもある。
お前みたいに子どもらしくもねえし……、ああ、これは褒め言葉だからな。そういうまっすぐさは俺にはねえし、何より、」
「………」
何より。その言葉の続きがひどく気になった。
気になって、ジッといつみを見据える。手をかけたままだったフェンスが、キシッとしなるような音を立てた。
「自由に生きられるお前が、俺は羨ましい」
何かが一瞬にして引いていくような気分だった。
それが何か気付いた時には、後悔という名の波だけがひたすらに押し寄せてくるばかりで。
「家に縛られることもなければ、何か複雑な事情があるわけでもない。
多少お前の両親は口うるさい方だが、お前が望めば望んだ方向に物事は変わる」
「、」
「俺が欲しい『自由』を、お前は持ってる」
恵まれたヤツだと思ってた。
顔良し頭脳良し家柄良し。支えてくれる幼なじみがいて、当たり前のようになんでも手に入るヤツなんだと。……ばかみたいにそう思ってた。
「……だからお前は。
本気で欲しいもんぐらい、自分で手に入れてみろよ」