「……頼れって、言わなかったか?」



ふと。

背後から聞こえるはずのない声が聞こえて、バッと振り返る。そこにはなぜか俺とは違う制服を着ているいつみの姿があった。



いつも涼しげな瞳は、相変わらず涼しげで。

だけどいつもと違うことがひとつだけあった。……息を切らしているその姿は、どう考えたって、余裕げじゃ無かった。



「なんでお前、こんなとこにいんだよ……」



ここは俺の中学の校舎だ。

いつみがいるのはおかしいし、普通に考えて不法侵入だ。なんでいるんだって眉間を寄せる俺を、いつみは「莉央」と静かに呼んで。



「頼れって言っただろ」



最初と同じ言葉。

俺が突き放しても変わらなかった優しさと同じ言葉。……頭の中で、何度も、回ったそれ。




「なんでお前はいつもそうなんだよ」



「、」



「なんのために俺と夕帆がお前のこと毎週のように拉致してたと思ってんだ」



「………」



「学校にも家にも居場所がねえからって、

息苦しくしてるお前がいつでも頼ってこれるように居場所作ってやってたんだろうが」



「……ばかじゃねーの」



そんな、都合の良い話があるわけがない。

いつみは俺よりも断然頭が良い。だから俺を引き止める調子の良い言葉だっていくらでも言える。それっぽい理由を言えば、俺を引き止められると思ってる。