タチの悪いヤツはいつもそうだ。

都合の悪い環境を極力避けて、こうやってあとで謝れば済むと思ってる。……うんざりだ。



「……もういい」



「え……?」



「お前が盗んだとか、もうどうでもいい。

……だからもう俺に二度と関わってくんな」



吐き捨てて、教室を出る。

女が「待って莉央!」と呼び止めてきたけど、当然振り返らなかった。どうでもいい。心底。もう自分でも、何がしたかったのかわからない。



自分のどうしようもない環境が嫌で、真面目だった自分を捨てれば世界は自分を中心に回った。

でもそれは仮初めだったと気付いた時には、もう遅い。



悪いことに、慣れてしまったら。

……元に戻れないのは、いつみの言う通りだった。




「……、」



親に呆れられて、いつみと夕帆を突き放して、積み上げてきたと信じてきたものも実際は俺に手を伸ばしてくれなかった。

……居場所を完全に、なくしてしまった。



こんなときにいつみの「頼ってこい」って声が頭の中でループする。

だけどあの時突き放したアイツらにあっさり縋るのは、違うと思った。



「……転落死が、いちばん酷いんだっけか」



ぽつりと、つぶやく。転落死って確か、原型をとどめるかそうでないかと言われたとき、一番ひどくて惨(むご)い死に方になるはず、だ。

……飛び降りる高さにもよるだろうけど。



校舎の、立ち入り禁止の屋上。

ここから飛び降りたら、どんな状態になるかは知らねーけど。……死ねるっちゃ死ねるな。



別に死にたいわけじゃなかった。

ただ。……残された居場所がどこにもないのなら、これがいいんじゃねーかなって、ただそれだけ。