俺は6年の努力を捨てた末に、自分を中心にして回る世界をつくった。
なのに蓋を開けてみれば、誰一人として助けてくれるヤツはいない。
ここに来てようやくわかったことがある。
俺が大事にしてたのは上っ面だけの友情だとかそんなもので、自分の立場が危うくなれば途端に口を閉ざす、そういうタチの悪い連中ばかりだった。
「……俺が盗んだってことでいい」
「馬村、」
「その代わり。……俺の名前出したヤツは?」
笑える。
捨てたものはあれだけ大きかったのに。手に入れたものなんて、実際には何もなかった。
担任がとても困り顔で告げた名前は、クラスの端にいる、これまた地味な男だった。
俺と同じ小学校の出身の男。俺が地味だったあの頃も知っていた男。……あとから聞いた話だと、盗んだ女が1年の頃に付き合っていた元彼らしい。
どうしてあんな派手な女がああいう男と付き合ってたのかは、知らねーけど。
近くにいた俺がそれに気づかないぐらい、俺との仲の方が親密で。俺と付き合ってたわけじゃねーけど二股に近かっただろうから、それの逆恨みか何かだろう。
「俺が盗んだことにしといてくれていい」
もう一度そう告げれば、担任は呆れたようにため息をこぼして、「わかった」と話を終わらせた。
もどった教室の中は微妙な空気が漂って。担任は、誰が盗んだのか、最終的なことは口にしなかった。
話もクラスの中だけでもみ消され、"無かったこと"になった。
だけど無かったことにできるのは、その環境だけ。
「莉央……あたしのせいで、ごめん」
「………」
「……ごめん」