「んなわけねーだろ」
「じゃあなんで、お前の名前が出てくるんだ」
「俺は財布持っといてくれって頼まれたんだよ。
だから持ってんのは事実だけど盗んだのは俺じゃない。……教室のヤツら見てたと思うけど?」
そう言って、持っておいてくれと頼まれた財布を机の中から取り出して担任に手渡す。
ため息を吐いた担任は、持ち主にそれを返したあと。
「……渡されてたのを見てたヤツは?」
教室の中に、そう問いかける。
だけど声を上げたヤツはひとりもいなかった。……たったの、ひとりも。
クラスのヤツのほとんどが、それを見てたはずなのに。
"盗んだのを知っていた"ことで怒られるのを、回避するために。──誰一人として、名乗り出なかった。
「……は、」
「馬村、ちょっと来い」
お前ら自習な、と。
話は中断、俺は別室に呼び出し。複数の視線が向けられたものの、俺は教室を出る際にわざとらしく扉を大きな音で閉めた。
……ふざけんな、マジで。
俺は「やめとけ」っつった。大丈夫だって言い切ったのは女の方で、大丈夫じゃなくなった瞬間に、自分が盗んだとも名乗り出ない。
言ってやろうかとも思った。
「盗んだのはあいつだ」って。
「……財布がお前の机から出てきた以上、信じてやりたいけどそれは難しい。
でも聞く。盗んでないなら、誰が盗んだんだ?」
言えばよかった。言えばアイツも事情を聞かれて、そしたらたぶん泣きながら正直に言ったかもしれない。
……だけどもう、なんでもよかった。