何を根拠に"大丈夫"なのか、さっぱりわからない。
俺が何を言っても「大丈夫」と一言で済ませて、「ねえ莉央」っていつもの甘い猫なで声で俺を呼ぶ。……ああもう、何もかもうぜえな。
「あたしが持ってたらバレちゃいそうだから、
莉央が持ってて? ね、お願い」
「は、ふざけんな」
「ちゃんとあたしが返すからだいじょーぶ!」
置いといてくれればいいから!って。
俺の机の中に財布を忍ばせてそそくさと席にもどる女にため息。この時、財布の持ち主である彼女は教室にいなかった。──だけど、このやり取りは、教室にいた全員が知っていたはずだ。
「大事な話がある」
数学の授業も寝てやろうと思っていたら、担任のそんな声で「今日は起きろ」と指示されて空気が張り詰める。
なんだよと文句を言いたくなりながらも仕方なく上半身を起こせば、「このクラスで、財布が盗まれたらしい」と一言。
その瞬間、嫌な予感がした。
軽いイタズラの気持ちだったんだろう、盗んだ犯人である女は一瞬顔を引きつらせていた。……だから言ったじゃねーかよ。
「馬村」
呆れていれば、指名されたのは俺。
「……お前が盗んだって話を聞いた」
「……は?」
「盗んだのはお前か?」
至極真剣に聞いてくる担任。
ちらっと見てみれば財布を渡してきた女は青ざめてるし、あれはたぶんわざとじゃない。っつーことは、やり取りを見ていた誰かが、あえて俺の名前を出した。