嬉しそうに頰を緩めた女と。
「んじゃサボるわ」って言えば、「ずりぃ」って口々に愚痴る男たち。それに「ずるくねーよ」って返して、保健室に連れ込んで。
「莉央……好き」
「そーかよ」
「莉央はあたしのこと……すき?」
ベッドのスプリングが軋む。
「嫌いじゃねーよ」って言ったら「なにそれ」って笑うから、それ以上詮索されないように動きを強めることで言葉を封じた。
「……、うぜぇわ」
ベッドの中に、眠る女を残してつぶやく。
あとでバレたらめんどくせえから、しっかり確認しなければわからない程度に制服だけは直してやって、保健室を出た。
好きとか嫌いとか、そういうのめんどくせえしウザいし。
茹だるような夏の暑さも、それに拍車をかける。
「は?盗んだ?」
「盗んだわけじゃないってば。
ほんのちょーっとイタズラしてるだけ」
むぅ、とくちびるをとがらせる女の手には、シンプルな長財布。
がっつり派手メイクの女に似合わないそれは、実際コイツのものじゃない。クラスでもかなり地味な方の、女の財布。
その地味さ故に、俺が普段一緒にいる連中が、よくイタズラのターゲットにしているのは知っていた。
俺は小学生の頃の自分が同じような地味なポジションにいたから、「やめてやれよ」っていつも軽く忠告はしてたけど。
「いや、普通に可哀想だろそれ」
「気づいたらすぐ返すから大丈夫だって~」