「ぜんぶ優秀なお前に分かってたまるかよ……!

そんなの、お前が俺に勝手に押し付けたただのエゴだろ!」



「莉央、」



嫌いだと言って目を背けてきたのは俺の方。

そうじゃないと、嫌でも自覚する。劣っていることを自覚して、卑屈になる。こうすることでしか逃すことのできないこの瞬間でさえも。



涼しさを保っている余裕げないつみと。

もう既に我を忘れるほど一方的に怒りを募らせてるだけの俺じゃ、何もかもが違う。



ガッと胸ぐらを掴んで引き寄せても、その瞳が色を変えることはなかった。

──ずっと、氷のように冷たい漆黒のまま。



「俺の欲しいもん全部持ってるお前には、

俺の気持ちなんか一生わかんねえよ……!」



吐き出した言葉を遮るように、後ろから俺の手を掴んだのは夕帆で。

いつもなら俺を揶揄うその表情に、笑みはない。




「わかるわけねえだろ、俺といつみはお前じゃない。

実際お前はいつみの気持ちわかってねえしな」



胸ぐらを掴む俺の手を払って、夕帆は「もういい」と一言告げる。

たった一言に込められたその意味を理解できなくて眉間を寄せれば、「もういい」と同じ言葉。



「拉致なんかくだらねえこと、もうしねえよ。

見かけても声掛けねえし、これでお前は俺らと関わらなくて済む。よかったじゃねえか」



そうだな。それでいいんだよ。

俺のことなんか理解できないお前らと関わる筋合いなんてねーんだから。清々するわと鼻で笑っていつの間にか通い慣れたいつみの部屋を出る直前。



「莉央」



「………」



「……お前がそう思うなら、それでいい。

でも、どうしようもねえ時は頼ってこい」