「ねえねえ、莉央ってー」
「ん?」
「"あの"珠王さんと知り合いってほんとー?」
約束した週末のカラオケボックス。
ほかのヤツの歌をBGMに、絡んでくるクラスメイトの女子。今日も今日とて派手なメイクと、尋ねる言葉にふくまれる多数の興味本位。
珠王いつみの名前は、有名だった。
学区で言えば、俺の通う中学の隣の学区の中学に通う。しかしまあ、学区といえどそれなりの範囲があるわけで。
「家が近所なだけだっての」
ちょうど学区の区切りになっているところに住んでいる俺と、その珠王いつみ。
学区は違うが家は近い。医療機関で有名な珠王の家が近くにあることは知っていたが、顔を知ったのは小学生の頃だ。
だから、いつもアイツの後ろをひっつく男ほど昔馴染みの関係じゃない。
あくまでご近所さん。……ま、実際そんなもんじゃねーんだけど。
よく言うだろ。
火のないところに煙は立たないって。
「えー。そうなの? 残念」
「何が残念なんだよ」
「知り合いならお近づきになれるかと思ったのにー」
「お前、俺をあの人と知り合うダシに使おうとしてんじゃねーだろうな」
ふざけんなよ、とわざとらしく頰をつまむ。
「バレちゃった」と笑う女に絶対零度の眼差しを向けてから手を離して、ふう、と小さく息をついた。