「馬村ー。ちょっと来い」



昼休みの教室の中に、担任の間延びした声で名前を呼ばれる。

「お前なんかしたの?」って楽しそうな男連中を小突いてから、内容は分かりつつも「何スか?」とあえてとぼけたフリをした。



「お前なー……

勉強できねーのも嫌いなのも知ってるけど。さすがにこれはねーだろ、これは」



ほかの生徒の目を気にしながらも俺の前でぴらぴらと振られたのは、つい2日前に受けた数学のテスト。

確かこの昼休みのあとが数学だから、ほかの生徒に返却する前に俺の元へとやってきたらしい。



「名前書き忘れって0点っスよね?

なら、3点ぐらいくれてもいいと思うんスけどー」



内容は全て白紙。かろうじて、学年クラス出席番号は書いてある。あと名字も。名前はナシ。

名前まで書こうとした記憶ならあるけど、たぶん面倒だったか眠かったかで断念した。どうせ0点だし。



言ってしまえば、中学生の反抗期真っ最中。

中1のくせにこんなナメた言動ばかりしているせいで、上級生から生意気だとケンカを売られることも多かった。




「お前なー……親御さんが心配してたぞ」



「ハイハイ、そうっすか。

どうせあの人らが心配してんのは、俺の成績じゃなく世間体だっての」



テストの点数欄に堂々と書かれた0に舌打ちして、「あ、おいこら馬村」と引き留める担任の声を完全無視。

席にもどれば、「莉央ってほんと勉強嫌いだよねー」と寄り付いてくる女子。



「好きになれるワケねーだろ」



「あははっ、さすが莉央。

ねーねー週末みんなでカラオケ行こ?」



腕を絡ませてきて、「いいよね?」って俺を見上げる瞳には中学生とは思えないド派手なメイク。

「仕方ねーから行くか?」って男連中を振り返れば、すぐにノッてくる男達と、嬉しそうに「わかってるよねー」と頬をゆるませる女達。



このとき世界は。

俺を中心に回るのが、当たり前だった。