「せっかく来たのに、

混ざってこなくて良いのか?」



「……そのセリフ、そっくりそのまま返すわ」



「俺はさっき南々瀬と軽く歩いてきただろ」



旅行といえど、突発的に決まったわけで。

海沿いで都会とは離れたこの場所に、どこか観光するようなところも特に無い。挙句海に入らないのだとなれば、やることはほとんど無くなる。



だから昼間のバーベキューをだらだらと楽しんだ後、テラスをおりて砂浜で写真を撮ったり、軽く砂遊びしている面々。

俺はまだ一度も砂浜に足をつけていないし、ほかの奴らを遠目から見ているだけのいつみも、いま下におりる気はないらしかった。



「……夏だな」



ぽつりとつぶやけば、一瞬だけいつみが視線を寄越す。

それから、「お前は、」と口を開いたあと。




「……忘れられねえんだな」



「………」



悩むようにして言葉を探した割には、安っぽくて薄っぺらい言葉だった。

だけど単純な言葉ほど、そこに感情は込めやすい。……それを読み取れるかどうかは、また別の問題だ。



「……いつまでも、そうやってるつもりか?」



「……それはいつみが決めることだろ」



「その俺がお前に答えを求めてんだから、

お前は素直にそれに答える義務がある」



スッと細められる視線。

いつみは「違うか?」と、ただ一言で返事を催促して。「……そうだな」と答えた声は、あの日の記憶を孕んで、やけに重々しかった。