弟みたいな存在だったから、放っておけなかった。
放っておけなくて、八王子っていう箱庭の中で縛られるふたりの面倒をこれから先も見てやりたくて、進学先ははじめから王学に決めていた。
教えたのは中3の夏休みだったけど。
……俺がお前らのためにどれだけ夏休みがんばったか、お前らは知らなくていいよ。
兄としてのプライドだから。
弟みたいな存在のお前らは知らなくていいんだよ。
「……椛先輩、特進にするんですか?
この間聞きましたよ、実はものすごく成績いいって」
「んーん、俺が行きたいのは教養科」
さすが王学といったところか。
学校全体のものに加えて、学科別にまで1冊ずつ用意されたパンフレット。王学に決めたことを話してから、ルノはしばらく納得してなさそうだったけど、結局応援してくれた。かわいいヤツめ。
そのパンフレットをぱらぱらとめくったルノは、「教養科?」と首をかしげる。
ルアはふあっと欠伸して、水銀のような瞳に青空を映した。
「そ、教養科」
「教養科って、教師目指す学科ですよね?
椛先輩、オレンジ色の髪で教師目指してたんですか?」
「オレンジばかにしてんじゃねえよ」
「いや馬鹿にしてませんけど」
ふわふわと、オレンジ色の髪が揺れる。受験のときは黒髪絶対って言われてるし、終わったらまた髪染めねえと。
中1になって思春期に入った弟に、「ちょっとそれ派手すぎてはずかしい」って言われたから、今度はもうちょい抑えめで。
「いいなって、思ったんですよ。
椛先輩にぴったりで。……あと、きっと素敵な先生になれるだろう椛先輩に教えてもらえる未来の教え子たちが、羨ましくなっただけです」
「……俺はこんなツンデレのデレの割合が低い生徒やだよ」なんて、ふざけたこと言ったけど。
るーちゃんのこのセリフがこれ以上ないぐらい嬉しかったって、そんなこと、絶対教えてやらない。