「……ああ、そう、か」
関係なかった。母親が誰だろうと、母親がふたりいようと、歪だろうと。
──俺の弟が呉羽ひとりで、その弟が"大事"だってことに、なんの関係もなかった。
「……で、なんで来たんだっけ?」
「え? あ、だからお礼を……」
「別にお礼とか良いから。
……その代わりさ、暇な時話し相手になってくんない?」
ルノとなら、なんとなく関係を築けそうだった。
同じように弟を大事に思う気持ちは変わらないから。俺らの奥底にある関係性は、「弟が大事」ってことだった。
八王子のプリンスは、それはもう多才で。
ルアの方も時折ふらっと来ては、俺の隣で丸まって猫みたいに日向ぼっこしながら眠っていた。安眠を邪魔されないから全然良い。
「えっ、また兄弟増えるんですか?」
「そうそ〜。来年生まれるんだってよ〜。
弟でも妹でも俺絶対溺愛しちゃうじゃん」
ルアを助けたのは中2の終わりかけ。
わずか1ヶ月ほどですっかり八王子のプリンスたちと仲良くなった俺は、またそばで眠っているルアと、寝不足の俺にお湯で濡らしたタオルを持ってきてくれるデキる後輩ルノに、兄弟が増えることを告げた。
話してみて気づいたのは、案外ルノもルアも庶民派だってことだ。
それにこの学校に居心地の悪さを感じてる。
だからお互いにとって、気を許せる時間だった。
かわいい後輩は、俺の弟みたいなものだった。
「ふふ……いろは、みたいな……
おにいちゃんがいたら、生まれてくるあかちゃんも、きっと、うれしいね」
「……お前は本当にいいヤツだねえ」