でもまあ、言ったのが俺なわけで。
いくら叱られても髪色オレンジとかにしちゃってるイレギュラーなヤツなわけで。遅刻サボり常習犯すぎて、「実はこのあたりの不良のボスだ」みたいなくだらない噂も立っている俺なわけで。
「だ、だめ、です」
本当に録音してねえのに信じ込んだらしい女の子たちは、途端に怯え出す。
顔面蒼白もいいところだ。
「なんで?
ルノくんが好きなら、本人に言ったほうがいいじゃねえの。……ああ、弟の方は嫌いだってちゃ〜んとルノくんに伝えてやってよ?」
「ッ、」
ああその泣きそうな顔。
都合悪くなったら泣きそうになるその顔。
すげえ腹立つんだわ。
俺の母さん、絶対泣かない人だからさ。
「……嫌なら別に"ルノくん"には聞かせねえよ。
その代わりもう二度とルアに近づくなよ。呼び出すのももちろん禁止。次やったらルノに全部言うからな」
あえて低い声で告げれば、もう既に女の子たちは泣きそうだけど。
「ごめん俺記憶力いいんだわ、顔見ただけで全員の名前言えるよ?」と追い討ちをかければ、その場をあっという間に逃げていく女の子たち。
泣いてた子もいるけど、忠告するならこれぐらいでいい。
睡眠の邪魔をされたから、いつもより2割増しで怒っちゃったけど。ふっと息をついて階段をゆっくり下りると、手を差し伸べる。
「……大丈夫だったか〜?」
「……、うん」
このとき俺がルアを助けたのは、別に優しさでもなんでもなかった。はじまりは安眠のため。
八王子兄弟の仲の良さは知っていた。特に多才な兄が弟を何かと庇うのは有名な話だった。
ルアを見てたら、なぜか呉羽の姿が重なって。
決して口には出せなくとも怖がっている弟の姿を見たら。……兄としては、放っておけないだろ。