チッ、と舌打ちして、外から聞こえてくる甲高い声に顔を顰める。
女同士の甲高い声ばかり聴こえてくるとなると……これ修羅場じゃねえの?勘弁しろよまじで。俺は眠いんだよ。
でもまあ俺は、この格式高い学校でも、少々イレギュラーな存在で。
遅刻サボり常習犯の俺には、色々な噂が飛び交う。
それを知っていたから、顔を出して声をかければすぐにどこか行ってくれるだろう。
とにかく俺は眠いんだと、小さくため息をこぼして。
顔をちらっと覗かせれば、意外にもそれは女同士の修羅場じゃなかった。
……いや、ある意味修羅場ではあったけど。
「な〜にしてんの?」
声をかければ、ぴたりと一度声が止む。
複数の女に囲まれているのは背の低い男の子で、グレーの瞳が綺麗なその子は、ひとつ下の学年の八王子ルアだ。
遅刻サボり常習犯の俺でも知っている"あの"八王子のプリンス。
ふたり揃って綺麗な容姿をした双子で、しかも片割れはとんでもない才能をもつ八王子ルノ。
「き、騎士せんぱい……」
「あ、俺の名前知ってんだ?」
……まあこんなに奇抜なオレンジの髪のヤツなんかそういねえからな。
しかも八王子の家のお坊ちゃんまで通うような私立の中学に。なんでオレンジかって?俺のかわいい弟が「オレンジ色が好き」って言ったからだよ。
よかった緑とかじゃなくて。
「緑が好き」って言われていたら、俺の頭は年中ハロウィン仮装になっていたことだろう。……オレンジもなかなかだとは思うけど。
って、そうじゃなくて。
いまこの子たち、『あんたがいるからルノくんの評判が悪くなる』とか言ってたっけ。
「いまの会話録音したけど……
その"ルノくん"に聞かせていい?」
ぷらぷらと、ポケットから取り出したスマホを揺らす。
この学校ではケータイはもちろん校則違反。所持しているのがバレたらソッコーで叱られて没収。普通の生徒なら、間違いなく「嘘でしょ」と言われるところ。