渡辺君がいる花畑に、50年前の遊馬くんがひととせちゃんと此処でデートしていたと言われて、なんだか納得できてしまった自分が怖い。
「あれ、比奈さんに鵺君」
 花畑から此方に気付いた渡辺君が、ゆっくりと向かってくる。
「鵺」
「本当だ。祟りが消えているな。おい、渡辺、俺の暴言は謝罪しよう。悪かった」
 いちいち偉そうに言うやつだと横で聞いていてイライラしたけど、渡辺君は笑顔だった。その笑顔が、作っていない裏表のないまっさらな笑顔だと私でさえ感じられた。
「ううん。俺の自覚してたからカッとなっちゃったんだ。こちらこそ、ごめんね」
 渡辺君が鵺に手を差しだした瞬間、空から小さな光が漏れだした。
「ああ。明日からもまた頼む」
 空がカーテンのようにたなびきながら、雨の空を閉じていく。カーテンの隙間から、光が次々に漏れ出した。光が地面に突き刺さる中、菖さんが落ちていた銃を手に取り、ポンと池の中へ放りこむ。でも鵺はもう、そんな本物か偽物かわからない銃に目もくれず、光が揺れる空を見上げていた。
「俺、明日から野球部に復活して甲子園に出場出来たら、もう一度比奈さんにちゃんと告白するね」
「あはは。えっとまあ私でよければ、OKはできるか分からないけど、うん」
「比奈は俺が作る国家の姫だから、お前にはやらん」
 せっかく手を握って仲直りしたはずの二人だったけれど、何故か太陽が完全に顔を出し始めたのに、再び喧嘩を初めてしまったので、私と菖さんは呆れながらも顔を見合わせて笑った。
「ほら、行くよ、鵺」
 家で梶原先生と辰朗さんと言う方と、重じいちゃんが待っている。
「ふ。そうする。渡辺、この勝負はお前に勝つからな」
 私はモノではない。
「鵺よりも、渡辺君の気持ちの方が私は嬉しいですが?」
 野望の為に手に入れられてたまるものかと、秘め百合で頭を叩いたら、渡辺君は嬉しそうにバク転したりしながら帰って行った。
「ひゃっほーう」
「期待させて利用しようとは、卑怯だ。流石比奈」
「うるさい。本心だ」
「俺の人の気持ちもわからない不器用な心を案じてくれたのだろう。ありがとう、比奈」
「うっ。素直にお礼とか、らしくないこと言ってんじゃないよ」
 可愛げなくもそう言いつつ、私はひらりと塀の上を登った
。「世界征服を企むならば、私と同じ目線でこの豆田町を見てみなよ」
 私の家まで帰る岐路。光のカーテンに揺れながら塀の上を走る。豆田町の中には忌みは現れないけれど、鵺にも同じ忌みが見え、それを鵺は高々に見えると宣言する。人には見えないものと私たちは戦っているのだと宣言している。
「そう言えば、あの巫女が俺の目を『浄玻璃の鏡 (じょうはり)』だとまじまじと見ていたな」
「じょうるり?」
「閻魔の、地獄に落ちてきた罪人の悪事を見抜く鏡のことらしい。そんな眼識が俺にあるのだと」
「ふうん。使いこなせなきゃ意味がないよね」
 だからこいつからぼわぼわと悪意の様な忌みが放出されていたのかな。
「確かにな。お前は容赦ない」
 鵺はらしくなく豪快に笑うと、私の前をひらりと舞った。
「すっげ」