カチャンと鍵を開けて、正規のルートから出てきたのは……鳩だった。19歳のくせに、うちの学ランを着ている。
「なんで……や、何してんの?」
「重お爺ちゃんの御使いで、梶原先生に用があったッス。したらば、屋上からただならぬ匂いがしたので、透真君の夏服をお借りしました」
「あ、比奈さんの婚約者?」
「違うし黙れ」
 剣を渡辺君に向けると、また飛び上がって怯え出した。鳩はズボンの後ろポケットから見たことのない大きな銃を取り出し不敵に笑う。
「因みに鵺君。俺が昨日、諌山のお爺さんと一緒に銃を偽物に変えていたらどうしましょう。これも本物か分かりませんが」
「はったりだ。俺は昨日、この銃を装着して眠った」
「カツ丼に睡眠薬が入ってたからぐっすり眠ってましたよね」

 白熱する三人の探りあいの言葉に、何が真実か見極めるのが困難になってきた。「鳩とやらに聞こう。お前は世界征服の野望もなく、倒したい敵もなく、目的もないのに本物の銃を抜く覚悟はあるか」
「全然ないっすよ。でも俺、多分きっと揉み消して貰えるから問題ないっす」
「流石鳩さん。俺も揉み消してもらおう」
「任せろッス」
 鵺は鳩に銃口を向け直し、透真君は鵺に銃口を向けて――鳩は渡辺君に銃口を向けた。
「この子が一番嫌な匂いっす」
「鳩さん」
透真君が止めるけれど、渡辺君は右手を握り締めた。「俺は、俺は、」
 ぶわっと広がる黒い忌みは、私だけしか見ることはできなかった。何故なら誰も私と一緒に、空を見上げることはなかった。空に届きそうな忌みが見えたのは、私だけ。
「俺は、鵺くんが停学でも退学でもなれば良いって思ったし。透真キャプテンが甲子園出場停止になれば俺は野球部に復帰できるし」
「二人の共倒れを望んでたの?」
 私が静かに尋ねると、観念したかのように苦く頷いた。
「鵺君も透真キャプテンも、比奈さんみたいに病弱な綺麗な子を乱暴に扱いすぎなんだよ!」
 病弱で――綺麗?
「ぶほっ」
「あー、けほけほ」
「……その通りだ」
 ある野球部少年は隠すことなく吹き出し、ある修行の身である男は咳で笑いを誤魔化し、ある中二病な王子は野望の為に否定せず頷いた。
 渡辺君の目には、皆が作りだした私が映っている。病弱で可愛くて、儚げな簿少女が。
「さっさと改造銃で二人とも両手が爆発でもしてしまえばいいんだ!」