クラス委員を地でいくような、面倒見も良く人懐こく、優しくて温厚な子だと思うけれど。
 「あ――、うん。なんでもない。早く行ってあげて」
愛海のはっきりしない態度に、喉に小骨が引っかかったような後味の悪さを感じながらも私は屋上へ向かった。
 三階は主に美術室や音楽室、それに科学室やらあり、急がなければお昼ご飯を食べた部活生が上がってきてしまう。
 所々存在している忌みを辿っていくと、科学室の向こうの教材室に辿りついた。教材室の向こうにの壁に登るようの足が埋め込まれている。意外と簡単に見つかったけれど、見上げると屋上の入り口を必死で抑える渡辺君が見えた。
――二人を説得しているはずなのに、誰にも入ってこられないようにドアを押さえている?
「渡辺君、そこ通してくれる?」
 私が渡辺君を見上げて叫ぶと、彼は数メートルは飛び上がった。
「ひ、比奈さん」
「そこで喧嘩してるのって、透真君と鵺なんでしょ? 私に仲介させて」
 そう言うと、渡辺君の周りから忌みがぶわっと私めがけて放出される。なんでこんな良い人からこんな靄が――。
 するとふらりと飛んで、ひととせがその忌みを尻尾で消し飛ばした。漸く渡辺君の表情をまじまじと見れた気がする。そうそう。こんな風に、毒のない爽やかな少年だったはす。だけど真っ直ぐ見る私の視線を、気まずげに逸らす。
「ねえ、渡辺君。何かやましいこととか心に思ってないこととか言ったりやってない?」
「え、や、ないよ? でも此処、透真キャプテンが誰にも開けないでって」
「君は透真君が喧嘩して大学推薦取り消しやら甲子園出場停止になっても喧嘩を止めないの? ってか喧嘩を止めに来たんじゃないの?」
 ゴロゴロと空が泣きだした。本当に渡辺君は雨男だと裏付けるように、ごろごろと泣きだしている。
「ちゃんと私の目を見て」
逸らし続ける渡辺君を見上げると、彼は観念したかのようにゆっくり見る。
「比奈さん、俺が……」
 視線を迷わせた後、目を閉じて唾を飲み込んだ渡辺君は私の目を見た。
「俺が、真っ直ぐな性格の透真キャプテンをけしかけたんだ」
「けしかけた?」
「今朝、鵺君が無理やり比奈さんをお姫様だっこしてたから。あんなことしたら、鵺君を好きだと言う女の子たちから嫌がらせ受けちゃうかもしれないし、三年に喧嘩売ってるんだから三年にも目を付けられてしまうかもしれないし、だから」
「だったら渡辺君が鵺に言えばいいよね。私だって別に体調悪くて鵺にお姫様だっこされていたわけじゃないよ」
 カツンカツンと登りながらそう言うと、渡辺君は『え、ちがうの?』と慌てだした。嘘をつくのはよくない。渡辺君みたいに誤解して、今度は違う人を攻撃してしまったりしちゃうんだ。
「鵺がクラスに上手く打ち解けられたらいいなって、渋々お姫様だっこしただけ。あとは遅刻の言い訳が思い浮かばなかったから。ごめんね。病弱な美少女 じゃなくて」