「……へえ、そうだったんだ」
「だから客を連れていく。重爺さんに頼まれて、重い腰を上げたからな」
「ふーん?」
 何のことか分からなかったけれど、首を傾げていたら、スライドするドアを思い切りぶつかって倒しながら愛海が職員室へ入ってきた。
「ちょ、愛海?」
「た、大変。鵺君が! 私の鵺君が!」
 残念ながら愛海の鵺ではまだない。イケメンに目が無いのは分かるが、鵺も鳩も一筋縄ではないからオススメできないのに。
「諌山がどうした?」
「三年生に連れて行かれちゃいまいsた!」
「はあ? 何で? あ、停学になった喧嘩のやつ?」
「分からない。でも、透真先輩も鵺君もなんか、殺気だってて怖くて。渡辺君が間に入ってるけど、全く聞き耳を持たない感じで」
 ……鵺は世渡り上手だと、今日の朝、実感した。私を利用した当たり、ヤバくなったら上手く切り抜ける腹黒王子だろう。でも透真君は違う。野球でも喧嘩でも堂々勝負する人だ。だから今、透真君には自分の大学推薦やら甲子園やらが頭に入ってないのかも。
「で、三人は何処に行ったの?」
「分からない。私、早く先生に伝えようって思って」
 ちらりと梶原先生を見ると、頭を抱えている。
「私が上手く説得するから、他の先生には内緒にしてて。三年の部活が大事な時の馬鹿をちょっとだけ目をつぶってあげてね」
「おかんか、お前は」
 先生は呆れたように笑ったが、分かったと両手を上げた。普通の先生だったらこういかないけど、緩いながらも生徒のことを考えてくれる梶原先生だからこそだ。感謝感謝。ひととせちゃんが私の首でごそごそ動き出し、私もリュックから秘め百合を出した。
 そして三階に上がって窓から校舎をぐるりと見渡した。ボワッと放出して見える黒い霧は、渡辺君だろうか。鵺だろうか。場所はすぐに特定できた。屋上だ。
「ねえ、屋上って閉鎖されてるよね。どうやって行くのかな」
 愛海に尋ねると、額に手を当てて眉をしかめた。
「確かどっかに非常階段みたいなのがあるはず。壁にはしごみたいな登る足がついてるって」
「へえ。なるほど、ちょっと探すからなるべく屋上に誰も近づけないでね」
「ちょっと待って、比奈」
 愛海が私の手を握ると、不安げに瞳を揺らす。
「その、多分だけど、渡辺君は」
「渡辺君が何?」