「透真先輩の国語力がやばいと思います」
「愛海に賛成」
「だから昨日、俺のツレがあいつにナイフで脅されたって言うからさ」
「…あー、昨日、鵺と喧嘩したの透真先輩たちなんだ」
 それでナイフも本当だったのか。
「俺はあの時、まだ登校していなかった。だから今日、挨拶に伺おうかなっと」

 さわやかな野球少年の顔が、ガキ大将の顔に変わる。この人、大学推薦を控えているのに、大人しくしていればいいのに。
「それに、妹みたいに可愛いがってる比奈があいつの二つ隣にいるのも心配だ。ちゃんと俺が近づくなって言ってやる」
 それにはつい耳がピクピク反応してしまう。
「本当?」
「ああ。ビシっと言ってやる」
「わーい。流石透真兄貴!」
 抱きつきそうになった私の両手は、教室や廊下からチクチクと向けられる視線の前で止まる。いけないいけない。いくら幼馴染でも、高校とうい集団生活を行う場では周りの目を意識しなければいけない。
 お弁当の肉野菜炒め弁当を、豪快にガツガツ食べていると、男子の視線もチクチクしたがそちらは構わない。勝手に病弱美少女だと勘違いしている人たちは、勘違いしたままでいけれど、それに私が演じてやるつもりもない。
「比奈って髪が艶々だよね。こんなに長いのに手入れ大変じゃない?」
 愛海が私の髪を掴むと、さらりと簡単に指の隙間から落ちていく。
「ん? 風呂上がりに手でぐしーーーーっと梳くだけだよん」
 乱暴に引っ張ってみれば、髪も何本か床に落ちた。
「冬になると冬毛の髪になるから抜けるのが大変で」
「あんたがその可愛い顔で言うと信じそうになるからやめな」
「おいっす」
 次に水筒には、温かい緑茶を入れておいた。それを飲みながら、私は昨日、どの可愛い口で『平凡がいい』と言ったのか忘れてしまう。それほどに、温かい緑茶は美味しい。
「そういえば、愛海や」
「なんだい、比奈ばあさんや」
「うちに、東京から来たイケメンが居候してますぞい」
 ズズズとお茶を飲むが、正面の愛海がガッツポーズだ。
「部活が終わったらいく」
「了解」
 空を見れば怪しい雲がちらほらと浮かんでいる。にわか雨が降るという梶原のお爺ちゃんの言葉。お爺ちゃんはとうとう、謎を全て解いてしまい、預言者として生まれ変わったんじゃないだろうか。
「お待たせ。行くぞ」
 ぼーっとしてたら、一度家に帰った透真くんが校門前まで戻ってきた。三年は夏休み前の三者面談があるので家庭訪問は免除らしい。自転車で来たので、前の籠に鞄を入れさせてもらう。刀は手に持った。