そうそう人を蹴ることもないし、あれは蹴ったのではなく斬っただ。
「減るもんでもないばい」
「減らん減らん」
 お爺ちゃんとお婆ちゃんも何故か鳩援護で、それも腹立たしい。私以外に慰められ、可愛がられ、鳩はおずおずとカレーを口に入れて目をウルウルさせている。
「めっちゃ美味しいです」
 人懐こい笑顔はなんだか勘に触った。
「寒い」
 カーディガンがまだまだ手放せない四月の初めの朝。あまりに寒いし、ブロック塀に飛び移るもの憚れるので、仕方なく中に厚手のタイツを履いた。紺色のタイツは、だぼっとしたカーディガンに合っているし、我ながら可愛いなんて、思ってしまう。
 またブロック塀に飛び移り、学校までの黒い靄を避けて歩く。すると、コンビニの袋をぶら下げた鳩に出会った。桜咲くブロック塀の道、鳩に出会った。
「何してんの?」
「や、九州や大分限定のお菓子を食べてみたくて」
「ふうん。こんな朝早くから?」
 昨日、カレーを三杯も食べていたくせに。「鵺君と出くわしたら、またお嬢が遅刻しちゃうからね」
「うわ。優しい」
 蛍光ピンクのジャージでなければ、格好いいと思ってしまった。が、今は時間がないので適当に手を振ると、走って向かうことにする。
「浴びると二歳若返る雨は?」
 不意に私たちの後ろで声がした。振り返ると、丸椅子を持って立ち止っている梶原のおじいちゃんだった。
「二歳若がえる雨?」
 私が考える中、鳩は手を上げる。だけど、おじいちゃんはにたりと笑った。
「にわか雨。傘を忘れずに」
「え、あ、二若雨、ね、はいはーい」
 今日の謎かけは答えがあるんだ、と拍子抜けする傍らで、鳩は答えたかったと地団駄を踏んでいる。
「夕立だったら、雷神だ。晴れた空の雨だったら、儂の記憶がそうさせる」
「お、まだ続きがあるんだ」
「儂が嘘をつくと、彼女が笑う。儂が嘘をつくと、空は怒って雨を降らす」
「嘘は駄目っすよ」
「ああ。嘘は……後悔しかせんよ」
 お爺ちゃんの嘘が、空を怒らせる。その嘘はどんな嘘なのだろうか。人の気持ちは目に見えないので、その人を知るか、尋ねるか、はたまた感じるしかない。でも今の、心が壊れているおじいちゃんに、真実を話せるような素振りはない。それほど、おじいちゃんの中でお婆さんは大切だった。壊れた音にも気付かないで、