もう今更夏帆からシャーペンをもう一本借りることもできないし…かといって他の子に聞いたら夏帆にシャーペンを貸してもらっていたから悪いし…


ああー。

めんどくさい。


数学の先生が教室に入ってくる。この先生は生徒指導に厳しいことで有名だ。

やばい…やばい…終わった。

メモを取らない授業でありますようにと祈願するも虚しく、今日は新しい範囲を始める、最悪な日だった。

カキカキカキ…

生徒がシャープペンシルを滑らせる音が学校の音楽を作り上げる。


「えー、で、ここでは…」


そして先生の無機質な声がその音と一体化するかのように左耳から流れ込んできては右耳から流れ出る。

何もメモを取っていなければすぐにバレるから、わたしは前ノートを取ったページを開き、そこに芯のないシャーペンを滑らせ、いかにもメモを取ってます風を装う。

先生が近づいてきたら即終わる。

冷や汗が止まらないし、くだらないことで最悪な朝を迎えることになってしまった自分を罵る。

スッ。

そんな時、わたしの机の上に一本のシャーペンの芯が現れた。

マジック…

なわけはない。ふっと隣を見れば、何を考えているのかわからない表情で一人の男子がわたしを見つめている。