知りもしない他人のことをよくもそんな風に言えるなと、内心呆れながらも、わたしの口は勝手に開いては思ってもないことをいう。
「わかるわかる。怖そうだよねー。」
別に怖いなんて思ってないし。ただ、本性がわからないだけ。
今も神木竜馬はふらりと教室を出て行ったっきり、だれも見かけていないらしい。
どこにいるのか、何をしているのかわからないからあることないこと言われるんだ。
平凡でいるのが一番。
みんなと話題を合わせて笑って、みんなと一緒に行動していれば、怖いことなんておこらない。
だから神木竜馬が気の毒だ。
もっと普通にしてればいいのに。
午後の授業が始まる。
ふと隣を見れば、黒目がちの瞳がどこか遠くを見つめている。
何を見ているのだろうと視線をずらせば、大きな鳥が空を羽ばたいていた。
いいなあ、飛びたいな。
神木竜馬に視線を戻せば、不思議なことに彼は人間のように見えなかった。
その澄みきった瞳が、風で揺れているように見える柔らかそうな髪が、その全てが、異世界にいるように見えるんだ。