神木竜馬は今学期から席が隣になった。

でも隣といっても、わたしの教室は全ての席が半メートルずつ離れていて、その構成を気に入ってる担任はなかなか変える気は無いらしい。

だけどわたしにしてみれば好都合だ。

隣の人の机に教科書がはみ出してないか気にすることもないし、授業中に喋り掛けられて自分までとばっちりを受けることもない。

うん、ベストなんだ、今の担任は。


先週夏休みが終わったばかりのわたし達は、まだ休み期間中のだるさが残っている。

特に神木竜馬はそれをクラスの中でも一番引きずっていて、始終眠たそうだ。

まあ、この人は常に眠たそうに見えるんだけど。


特に何事も無く終えた午前。

幾度か神木竜馬にお礼をいうか迷ったけれど、結局そのチャンスも到来せず、そのまま昼休みに突入した。


「今日はあんぱん。」

なんて一人うきうきしながら購買で買ってきたパンを頬張る夏帆。

「ねえねえ、二組の田中くんかっこよくない?」

他の女子たちが夏帆に話しかける。

「ああー、わかる!」

わたしはだるい気持ちを抑え、頰に筋肉を入れる。

うん、笑えている。

「ねー!かっこいいよね!」

自分のものじゃないような声が遠くで聞こえる。

誰だか知らないし。