「わたしは"セイヤ"。よろしくね」

ニコッと微笑んでみせるけど、ピロは理解していないようで首をこてんと傾げていた。

彼が口にした言葉は、名前かはわからない。ただわたしが勝手に名前だと思い込んだだけ。だから、"ピロ"には何か意味があるのかもしれない。

わたしは母親であるわけじゃないから、いちから言葉を教える方法はわからない。

とにかく何度も"セイヤ"と繰り返してみた。

「セイヤ。わたしはセイヤ」

自分の方を指さして、何度も何度も言い続けた。

「ピロ。きみはピロ」

そしてピロの方にも指をさして、"ピロ"と言い続けた。

「セイヤ。ワタシハセイヤ」

なんと、そう言ったのはピロだった。

わたしは驚きのあまり、山からに転げ落ちそうになってしまった。

ピロがわたしの名前を呼んだのだ。

もちろん、それがわたしの名前だとはわかっていないみたいだけど、なんだかワクワクしてきた。

「セイヤ」

わたしはピロの手を取って、わたしの方に指をさした。

「ピロ」

そしてピロの方にも指を向けた。

「キミハ、セイヤ……」
「そう!」
「ワタシハ、ピロ!」
「そうだよ!」

ピロは嬉しそうに、"セイヤ""ピロ"を連呼していた。

わたしも嬉しくて一緒に連呼した。

宇宙人と仲良くするだなんて、普通の人ならきっとできないよね。やっぱりわたしはひとりぼっちだから……

「ごめん。帰らなきゃ」

最近買ったばかりの腕時計は、八時を指していた。

おばあちゃんに心配かけてしまう。早く帰らなきゃ。

ピロのことは少し心配だったけど、そのままほっといてあげることにした。

きっと言葉の意味はわかっていないんだろうけど、手を振ると、ちゃんと振り返してくれた。

今日はなんだか、いつもよりも不思議なものと出逢えたな。