夕方まで考え込んだけど、結局いい案を思いつくことはなかった。

わたしは菊池の部屋にあるベッドに座りこんで、昼食に食べたサンドイッチの袋をひたすらピリピリとちぎっていた。

そのせいでわたしの周りはプラスチックのカスだらけ。

それにしてもこの部屋は広いな。

広い部屋にひとりでいることに違和感を覚えるのは、ピロがいないから?

ピロがやって来たのは本当に最近で、でももう何年も一緒にいるみたいな気持ちになっている。

わたしが家を抜け出したのは今日なのに、わたしがピロと離れたのは今日なのに。

どうしてなんだろう……

すると、

━━ガチャ

「松乃」

部屋のドアが開くと同時に、菊池がわたしの名前を呼んだ。

その呼ぶ声は落ち着いていたけれど、表情は淋しそうで悲しそうに見えた。

「なに」

返したわたしも同じような声だったと思う。

だってわたしも淋しくて悲しいから。

「久しぶりにさ……星空……見に行かない?」

わたしは思わず目を見開いた。

なぜなら、菊池から言うとは思っていなかったから。

わたしがあの時誘ったから迷惑をかけたのに、それなのにわたしと星空を見たいなんて言うわけがないと思ってたのに。

「もちろん」

わたしはそれだけ言って微笑んだ。

それから菊池も安心したように頬を緩めた。

なんだか不思議な気持ち。

今までそんなに親近感のなかった菊池と一緒にいて、こんなにも安心するだなんて。

なんだか世界が変わったというか、なんだろう。

これが本来の生活のはずなのに、まだ慣れることができない。変に緊張してしまうんだ。

幼い頃は一緒にいたのに、どうしてなのかな。


リビングに戻った菊池に続いて、わたしは周りに散らかったプラスチックのカスをゴミ箱に捨ててから部屋を出た。

「こんばんは……」

その時、いきなり知らない声がわたしに向かって飛んできた。

その声の主は、リビングのソファに腰掛けて片手にコーヒーカップを持っている男性。

短めの髪の毛にキッチリとした顔で、スーツを着たままぐったりしていた。

きっとこの人は菊池家のお父さんなのだろう。

「きみは誰?」

突然現れた女のわたしを不審に思ったのか、鋭い目つきで名前を尋ねてきた。

「……松乃星夜です」
「……!?セイヤちゃん!?」

お父さんはさっきとは全く異なった目で、驚きの表情を見せた。

そりゃあそうだよ。誘拐されたんだもの。生きていたかも確かじゃなかったのに。

「生きてたんだ……」

なぜか泣きそうな目でわたしを見つめて、優しく笑っていた。

その笑顔につられてわたしも微笑み返す。

菊池の人を思いやるところは、お父さんに似たのかな。

でもお母さんも優しい人。きっとお父さんとお母さんの二人ともが優しいから、菊池も人のことを思えるんだろうな。