泣き疲れたわたしは、お母さんの腕の中で眠ってしまっていた。

もう雨は止んでいたけど、地面を流れる大量の雨水の勢いは止まっていなかった。

辺りは真っ暗で勢いのいい水流の音しか聞こえず、真夏だというのにとても寒かった。

空も曇っていて、わたしの大好きな星の姿は一つも見えなかった。

「お母さん、お母さん」
「大丈夫。ここにいるからね」

わたしは何度もお母さんの存在を確認して、心を和まそうとしていた。

お母さんもそれに応えて何度も「ここにいるよ」と言ってくれた。

そのおかげで、なんとか怖さを和らげることができたんだ。

お父さんはというと、わたしの隣でずっと何かを考え込んでいた。

どうやら明日はどこかに避難した方がいいのかどうかということを考えていたみたい。

確かにそれは大切なこと。

もしかしたらこの家ごと流されてしまうかもしれないし、食糧を得ることは難しいし、ここにいるよりは断然避難所に行った方がいいのだろう。

だけど、ずっと住んできた家から離れるのは少し淋しくも感じた。

それでも命を守るためには決断をしなくてはならないのだ。それが今なのかな。

真っ暗闇の中でお腹を空かせているわたしは、まるで迷子になった子鹿みたいに見えただろう。

本当に怖くて怖くてたまらなかったけど、周りにはお父さんもお母さんも菊池一家もいた。だから安心できた。そばにいてくれたから。

誰も自分のそばから離れるなんて考えていなかった。

でもそうはいかなかった。