「おはよう」
「あぁ、星夜。今日は警報が出ているわ」

やった。さすがに補習も休みだな。

まぁ別に行っても勉強する気はなかったんだけどね。

「夜中から雨がすごかったのよ。お昼には止みそうだけど」

おばあちゃんは椅子に座って、テレビに目を向けたままそう呟いた。

わたしも椅子に座って白湯を飲んでいると、テレビに映るキャスターが真剣な眼差しで口を走らせているのが目に入った。

「地方によっては避難指示を出されているところもあります。絶対に外には出ないでください」

幸いわたしたちの地域には避難指示は出されていなかった。

しかし雨は変わらず激しく降っていて、窓にポツポツと力強く当たっていく。

「スタジオには専門家の荒木さんにお越しいただいています」

すると、その荒木さんとかいう男性が眉をひそめて会釈をした。

こんな光景、あまり見たことがないな。

「この大雨は、十四年前の災害とよく似ていますね」

荒木さんは表情を変えずにそう言った。

十四年前……わたしが二歳の頃か。

その時わたしはどうしてたのかな。全く記憶にない。

「十四年前の災害ってどんな感じだった?」

わたしの記憶には、災害とかそんな苦しいことは残されていない。だからお父さんとお母さんが亡くなったことも、記憶に残されていない。

「十四年前ねぇ……あれはすごかったわよ」

おばあちゃんは、さっきの荒木さんみたいに眉をひそめて語り始めた。

「この辺りも全部水浸し。だから避難に遅れたものは次々と流されていく。地上に降りずに、屋根に乗っかったまま餓死してしまうなんて人もいたわ」
「そんなに大きな……」

そんなに大きな災害があったなんて、全く知らなかった。

もしかしたら、わたしが住んでいたところは無事だったのかもしれない。でもおばあちゃんが言ってるから違うか……

「大雨が降り止んでも、地面はぐちゃぐちゃで復興にもとても時間がかかった。家は崩れているし、木は倒れているし。悲しいことに、そこから埋まっていた遺体が出てくることもあった」

おばあちゃんは顔を青ざめながら語った。

どうしてそんなに人が死ぬ話ばかり……

「まさか……」

そうか。そうだったのか。知らなかった。知っているはずのないこと。

「お父さんとお母さんは……災害で亡くなったんだ」

それ以外ありえないよ。二人が同時に死んでしまう事故なんて、これしか信じられないよ。

「……星夜。わたし言わなきゃいけないことがあるの」
「なんで隠してたの。言ってくれてもよかったじゃない!」

心の中でぐじゃぐじゃしたものが、やがて怒りへと変わっていった。

わたしの大事な、たった一つの家族。

お父さんとお母さんのこと、なんで隠してたの?なんでいつも言ってくれないの?

わたしを産んでくれたのはお母さんであって、決しておばあちゃんなわけじゃない。

わたしを強く育ててくれたのはお父さんであって、決しておばあちゃんなわけじゃない。

おばあちゃんはただの身内じゃないか。

でも、なんで記憶にはおばあちゃんしか残ってないの……

「……わたしは」
「もういいよ」

わたしは怖くて、勢いよく家を飛び出した。