「お、松乃。今日部活来る?」

休み時間に廊下を歩いていると、菊池と偶然出会った。

来る?と聞いてくるということは、コイツは行く前提ってことだ。

「行かない」

そう冷たく返してあげた。

わたしは家庭のことを詳しく知らなきゃならないから。

「お前に話しとかなきゃならないことがあるんだよ」
「ふーん。わたしも話さなきゃならないことを話すんだ、おばあちゃんに。だから今日は帰ります」
「おばあちゃん?」

菊池は驚いた顔をしてから、すぐに顔色を戻した。

コイツの話さなきゃならないこととか、絶対どうでもいいことだし、そんなのにつられるわけがない。

わたしのお父さんとお母さんのこと、これは他の誰にも聞けない大事なことだから。

「じゃあね」

そう軽くお別れをしてから教室に足を踏み入れた。

「あれ?もう下校だけど?」
「知ってるし」

菊池はニヤリと笑って言ってきた。

知ってたし。今日は終業式だから下校が早いってこと、知ってたし。

イライラしながら、そのまま生徒玄関まで行った。

もちろん夏休みも部活はあるけど、わたしは行かない。行くつもりは少しもない。

外靴に履き替えて、上靴を袋に包んでからからバッグに入れた。

校門を出ると、ちょうどお昼間で賑わっているお店がズラリと並んでいる。

特に用はないけれど、ずっと眺めていると無性に入りたくなってしまう。

わたしが入ったのは、不思議な雰囲気を醸し出している雑貨屋さん。

そこは学生の遊び場と言っても過言ではないほど、学生で溢れている。

入口には、少し気持ち悪いぬいぐるみが吊るされていた。それは世にいう『キモカワ』というやつだ。

その中をくぐり抜けると、ガヤガヤとした店内へと吸い込まれていった。

周りには色が恐ろしいほどカラフルなお菓子や、使う目的のわからないおもちゃなどが並べられていた。

それが学生を虜にさせるのだろう。

さらに足を進めてみると、大きな望遠鏡が置かれているブースが現れた。その外見は、わたしの愛用しているのに、少し似ていた。

どうやらとても高級なものらしく、遠くにある星を正確に観察することができるという。

そんな素晴らしい望遠鏡がこんな店に置かれているとは……

望遠鏡の周りには、星座にまつわる本や雑誌、ゲームが置かれている。

でもやっぱり、わたしを一番魅了させたのは望遠鏡だった。

「世界で有数の望遠鏡!ぜひあなたも体験してみては?」

いきなり耳に飛び込んできたのは、とても張り切った男性の声。その声は小さなテレビからタブレットのようなものから出ていて、どうやら望遠鏡のPR動画だったみたいだ。

体験と言われても……今は真昼間だ。無理に決まってる。

もちろん昼間も星は出ているのだけれど、わたしたちには、見えない。

「ボウエンキョウ……」

その声はさっきの張り切った男性の声ではなく、聞き覚えのある声だった。

「ピロ!?」

茶色のワンピースを身にまとった細身の生き物。その姿を見て宇宙人だと思う人は、わたしくらいだろう。

もしかして昨日もここに?

「昨日もここに来たの?」
「チガウ」

驚いた。ピロに話が伝わったんだもの。

街にいる人々の会話を聞いて、自分で一生懸命解釈しているのか。それが急成長の理由か。

それもかなり難易度の高いことで、ピロはやっぱり賢いんだと思い知らされた。