「おはよう。今日はえらい早起きね」

おばあちゃんは驚いた顔をしてわたしを見つめた。

「でしょ。わたしもよくわからないんだけどね」

おばあちゃんに透明になったピロが見えるはずもなく、とりあえず難所を乗り越えることに成功した。

そしてリビングの椅子まで辿り着くと、おばあちゃんがお皿を持ってきた。

今日はシンプルな和食。

お味噌汁に白ご飯、ほうれん草の胡麻和えにカツオのたたきだった。

ピロの好きなニンジンはどこにも見当たらず、なぜかわたしがガッカリしてしまった。

「隣の佐々木さんいるでしょ?」

また佐々木さんの話だ。牛肉の次はなんだ?

「ついさっきね、佐々木さんのお母さんの妹の旦那さんのお姉さんからだって言って、ニンジンを二箱分分けてくださったのよ」

わたしは、頭の中で人間関係を整理するので精一杯だった。

佐々木さんのお母さんの妹の旦那さんのお姉さん?

なんかの呪文みたい。

とにかくどっかの誰かさんがニンジンを分けてくれたというのだけは理解できた。

「へぇー、太っ腹ね。おばあちゃんもいつかお返ししなきゃね」

わたしはもぐもぐと口を動かしながらそう言った。

そのニンジン、後で一本二本盗んでやろう。

悪気はないよ。だってピロのためだもの。

「明日からビーフシチュー祭りね、あはははは」

おばあちゃんは甲高い声で大笑いした。

何がそんなに面白いのかはよくわからない。けど、おばあちゃんの楽しそうな笑い方にはいつもつられてしまう。

家にいる時はこんなにも楽しいのに。なんで学校は楽しくないのだろう。

なんでみんな楽しそうに笑わないのだろう。

ずっとこのままでいいのに。