それに声も出さずに、涙を流す彼女を初めて見た。




僕にはあいにく余裕と言うものがない。




自分にも無い。




こんな時ハンカチを手渡したり、気の利いた言葉をかけたりすることができない。





「ママぁ~?」




足下の方から小さなかわいい声が聞こえてきた。




「おなかいたいの?」




「また、あたまいたくなっちゃった?」




晴夏ちゃんが声を掛けて奏太くんが彼女の服の裾を引っ張る。




「ママ、かなたのおいすしゅわる?はいどーじょ。」




忙しなく、彼女を伺う二人。




そんな二人を見てどうにか平静を保とうと努力する彼女。




二人のやり取りにココロがしくしくする。



「ありが…と。」




彼女が落ち着きながら、声を絞り出す。




そしてもう一度思い直したかのように力強く返事をした。




「いつもありがとうね。奏太、晴夏。」



「いつも泣いちゃうのね~。ママ!大丈夫?晴夏がいるよ。」


えっ、


晴夏ちゃんの何気ない言葉にココロが振り向いてしまう。