世田谷西署捜査本部


各捜査員が調べて来たことが次々と報告されたが、もちろん事件に繋がる事実は何一つ浮かんでこなかった。

遺体からは殺人の物証となるものが一切出ないし、殺された理由も分からず、犯行の動機がある者もいない。

かと言って、無差別殺人だとしても、犯人らしき人物の目撃情報もないし、そもそも凶器も、その殺され方も不明。

捜査が進展するはずがなかった。


会議を終えて、捜査員達が散らばった後、真田が赤井を呼んだ。

「なんですか?」

赤井は無表情で言った。

「赤井、そんな顔をするなよ」

真田が少し弱々しく言った。

赤井は軽く溜め息を吐いた。

「で、何です?」

「実際のところ、手詰まりだ」

「そうですね」

「お前の意見を聞かせてもらってもいいか?」

「一刑事の意見を聞いても仕方ないでしょう」

「それを聞きたいくらい、追い詰められてるんだよ、俺は」

「…そうでしょうね」

赤井は、連日のマスコミのバッシングや本庁での管理官の報告を考えたら、そう言うしかなかった。

「この事件は、管理官が変われば解決すると思うか?」

真田のその質問は、弱々しく言ったのとは裏腹に、真田の本音が見えた。

「…いえ。無理でしょうね」

赤井はそれに応えた。

「やっぱりか…」

真田は少しほっとした様に苦笑した。

「お前、裏で何か動いてるだろ」

真田がボソっと言った。

「…いえ」

赤井もボソっと答えた。

「正直、俺はそれに賭けてる」

「え?」

赤井は目を少し見開いた。

「とりあえず交代させられない程度に俺も頑張ってみる。その間は、お前と三田村はやりたい様にやれ」

「管理官…」

真田は、赤井の肩を軽く叩くと、「ちょっと一服してくるわ」と会議室を出て行った。

赤井はその背中に頭を下げた。