「あれ?いなくなりました」

遥香が反対側を見ようとすると、

「!!」

目の前にいた。

かろうじて口を押さえて声を出さずに済んだ。

「もう、びっくりした」

女の子はつぶらな瞳で遥香を見ていた。

「どうかした?」

「ここ、何もないよ」

「え?」

女の子はそう言って消えた。

遥香は周りを見回したが、もうどこにもいなかった。

「あの、教授」

「ん?」

「ここ、何にもないそうです」

「え?あの子が言ったのか?」

「はい」

「そっか、わかった」

教授は少し考える様に頷いた。

「湯沢君、どうもありがとう」

「あ、もういいんですか?」

「ああ、大丈夫。参考になったよ。ありがとう」

教授はみんなを下りる様に促した。


「先生、どうかしたんですか?」

下りたところで忍が聞いた。

「ここには、何も、ない、そうだ」

教授は小声で忍に耳打ちした。

「そうですか」

「じゃあ、役場に戻るか」

教授は大きな声で言うと、さっさと来た道を戻り始めたのだった。


「何か、便利だな」

奥見田町役場でお礼を言った後、今度は宮城に向かう車内で教授が言った。

「先生!」

遥香が少し怒った顔で助手席から睨んだ。

「あ、すまんすまん」

そうだった、この車に一緒に乗ってるんだったと、教授は思い直して苦笑した。