「お久しぶりです」

渕上が応えて頭を下げた。

目が鋭く意思が強そうな顔だが、その表情には、当時の精悍さがなかった。

「あれから、何やら資料整理の部署に移ったと聞きましたが」

「ええ。今でもずっと、同じ仕事です」

「あの事件のせいですか?」

赤井は表情を変えずに聞いた。

渕上は、その質問に、少し視線を落として、

「いえ」

と、自嘲の笑みを浮かべながら軽く首を振った。

「じゃあ、やっぱり、奥さんの失踪が原因ですか」

渕上は、その赤井の言い切るような言い方にハッとして顔を上げた。

赤井は、渕上の反応に少し戸惑った。

「あれ?…娘さんから聞いたんじゃないんですか?」

それまで、赤井と渕上の雰囲気に何も口を出さなかった三田村が言った。

「いえ、何も聞いていませんが?」

三田村が赤井と顔を見合わせた。

「あの…何かあったんですか?」

渕上も三田村を見て、もう一度赤井を見た。

その雰囲気から、本当に何も聞いていないようだった。

赤井は、今度の事件について、遥香に話したよりは情報を減らして説明した。