東都新聞本社 応接室


「お久しぶりです」

赤井は目の前に座る渕上祐志(ふちがみゆうじ)に、微かに浮かぶ感情を出さないように言った。

その感情とは、ある意味、恨みではあった。

10数年前、社会部にいた渕上が、とある殺人事件に関わる警察の証拠隠滅をスクープ報道した。

警察が証拠隠滅したのは、犯人として逮捕した男性が無実である証拠だった。

このスクープの後、その男性は釈放され、再捜査によって真犯人が特定されたが、その時には海外へ逃亡したあとだった。

その時の証拠隠滅は、上からの指示だったが、その責任を直上の先輩が取らされた。

いつもペアで行動していた息の合った先輩だった。

その先輩が一人でやったことにされた。

赤井自身も直下でありながら、それを止められなかった責任を取らされて、捜査一課から所轄へ飛ばされたのだ。

その時は、証拠隠滅したのが組織ぐるみと分かっていながら、なぜもっと上を追求しなかったのかと渕上を恨んだ。

だが結局は、彼も彼自身の上からの指示でそれ以上は追求できなかったのだろうとも思っていた。

新聞社とはいえ、完全に警察と喧嘩をする訳にはいかない。

中途半端なことをしやがって…

それが赤井の思いだった。

でも、彼がそれ以上追求しなかったのは別の理由かもしれないと、今は思っていた。