「だから、お母さんを責めないで欲しい」

赤井はあえてそう言った。

「え?あ、そ、そうですね…、母は、殺されたから帰って来られなかったんだ…。そっか…私と父を捨てた訳じゃなかったんだ…。確かに、あんな土砂降りの雨の日にわざわざ出て行きませんよね…」

そこまで言うと、遥香はその事実にあらためて気が付いて、母のことを勘違いしていたことの後ろめたさ、そして母の無念さ、哀しさ全てが一気に心に流れ込んできた。

遥香は抑えきれずに大きな声で泣いた。

捜査の秘密を話したのはまずかったが、とりあえず、赤井は救われた気もしていた。


しばらく泣き続けて落ち着いてきた頃に、赤井に言われて三田村が新しいお茶を遥香の前に置いた。

「まあ、飲んでください」

赤井が優しく言った。

「…はい」

そして、何とか落ち着いた頃に、赤井にいろいろ聞かれたが、元々いきなりの行方知れずで、答えられることはほとんどなかった。

「最後にちょっと、今さら少し言いにくいんですが…」

赤井が遥香を見た。

「はい?」

「一応、お母さんのDNA鑑定をさせてもらっていいですか?間違いはないとは思いますが、確認はしておかないといけなくて」

「はい、もちろんです。当然のことだと思います」

「ありがとうございます」

遥香の素直な対応に赤井が頭を下げた。

遥香は、世田谷西署を出ると、一度振り返ってその建物を見た。

こんなところが自分に関係することになるとは思っていなかった。

軽くため息をつくと、陽が暮れかかった街へ歩き出したのだった。



赤井は、この写真が17年前のものなら、ついこの前見たあの顔とは違うことにがっかりしていた。

世の中、似ている顔は多い。

きっと、本件とは関係がない。

この時点であの頭蓋骨が遥香の母だとは思っていなかった。

ただ、それとは別に、そうであってくれとも思っていた。

今更、本当は失踪だった…では、彼女がかわいそうだった。


赤井は真田にこの事を報告した。