それに、赤井が危惧した様に、現場の足跡は、本人と第一発見者、そして犬のモノしかなかった。

あの遺体は、自分であそこに歩いて行ったのだ。

だが、あの死に方から、これが殺人事件であることは間違いなかった。

だからこそ今、この大会議室に約30人の捜査員がいるのだ。

現時点での初動捜査の結果を各担当が報告していた。

まずは一番疑わしい第一発見者について。

近所に住む40代後半の会社員で、19時前には帰宅し、風呂に入った後、ビールを飲んでテレビを見ながら居間のソファで寝込み、ずっと一緒だった妻が23時過ぎに寝室で寝るように急かして、そのままだった。

高校生と大学生の子供もそれを見ていた。

学歴も低レベルなただの文系大学出身で、今回の事件が本当に殺人事件であるなら、それを行った犯人像とはかなりかけ離れた人物だった。

それだけで、容疑者から除かれた訳ではない。

この男性の足跡が、建物の中に入り、そのまま慌てて外に出た、そういう動きしかなかったのだ。

その他にも報告は続いたが、犯人に繋がる事実関係は何も浮かんでこなかったし、その殺人方法、遺体の運び方もまるで見当が付かなかった。

頭の方はまだしも、身体の方も近隣の行方不明者の確認だけでは身元が引っ掛からなかった。

実際には、何もわかっていないことと変わりなかった。