莢にプロポーズをしようと決意したけれどその前にしておかなきゃいけないことがある。

「話したいことがあるんだ。」

いきなり掛かってきた電話に鈴歌は驚いた様子はなかった。

莢には急な仕事があると言った。

淋しそうな顔をさせてしまったけれど前の奥さんに会うなんて嫌だろうと思ったから。

「久しぶり。」

「来てくれて、ありがとう。」

「再婚を考えてるのね?」

グラスを見つめながら彼女は直球の言葉を投げてきた。

「どうして。」

「じゃなきゃ、呼び出したりしないでしょ。」

「約束覚えててくれたのね。」

離婚する時の約束だった。

再婚を考える相手が出来たらお互いに知らせること。

それが本当の意味での夫婦の終わりだと鈴歌が言ったから。

「心配してたのよ。」

「一生独りだったらどうしようかって」

「私の我が儘通して離婚したから。」

離婚理由は鈴歌が仕事を始め、それにのめり込んで行ったことだった。

専業主婦だった頃よりいきいきとしている鈴歌を認めることが出来なかった。

「で、彼女はどんな人?」

「噂は色々聞いてるけど。」

そこから先は何を話しても惚気だと呆れられた。

「でも、本当に安心したわ。」

「少なくとも私より貴方とお似合い。」

「お幸せに。」

ホワイトレディを飲み干すと鈴歌は立ち上がった。

「もう電話には出ないわ。」

「元気で。」

僕がかつて愛した人。

ずっと心のどこかで忘れてなかった。

でも、もうお終いにできる。

僕は莢の待つ家路を急いだ。