お父さんの横顔は冷静に見えたけど、いつもより何倍も疲れたように濃い影が落ちていた。お母さんは朔の横に跪き、かけられていた布団を避けて朔の手をさする。

「市川さん、先生が見えたのでこちらにどうぞ」

看護師さんがカーテンから顔をのぞかせた。私たち家族はぞろぞろとそのあとをついて、ナースステーションの端にある『面談室』とプレートがかけられた部屋へ。其の中にはお医者さんらしき白衣の中年男性がいた。白髪交じりでメガネをかけている。


「こんばんは。大変でしたね」


先生は手元のパソコンを操作する。その向かい側に座るように促され、両親が前に並んで座った。私はその後ろにおまけみたいに小さな丸椅子を用意されて腰をかけた。


「息子さんの容態ですが、決して今すぐ命に別状があるということはありません。MRIとレントゲンを撮りましたが、体の中に骨折や臓器の出血、腫瘍らしきものは見つかりません。炎症もありません。血液検査の値も、これと言って以上は見当たらない」


お母さんがあからさまにホッと息を吐く。けど隣のお父さんはさすがに冷静だ。すかさずお医者さんにつっこむ。


「じゃあ、どこが悪くて息子は倒れたんでしょう」


そう聞かれたお医者さんは、眉を下げた。