お母さんは何も話そうとしない。何か話したら、運転中でも泣きだしてしまうかもと危ぶんでいるのかもしれないと思って、私も黙ったままでいた。


「どうしてこんなときに外をふらついてるのよ」


代わりにお母さんの口から出てきたのは、私に対する恨みごとだった。きっと、可愛い朔の事が心配で心配で、一刻も早く自分も病院に向かいたかったに違いない。私のせいで出遅れたと思っているんだろう。

朔のことを全く心配してないわけではないけど、そういう言い方をされると、素直に謝れなくなる。素直に心配もできなくなる。

私のことなんて置いていけば良かったじゃない。そう言ってやろうかと思ったけど、やめた。これ以上面倒臭いことになりたくない。

黙ったまま十五分、車は近所では一番大きい総合病院の駐車場へ。外来もとっくに終わった時間なので、駐車場は暗く、空いていた。

朔の旅行バッグを持ち、黙々と歩くお母さんについていく。周りは重い荷物を持ってあげない、気の利かない娘だと思っていることだろう。でもお母さんが朔の持ち物は自分で持ちたがっているような気がしたから、手は出さなかった。

エレベーターに乗ると、やっとお母さんが口を開く。