このままここにいたら、また月が二つ現れないだろうか。あの不思議な月が重なった瞬間、素敵な夢に落ちたんだ。

涙でにじむ視界で夜空をにらむけど、そこには相変わらずひとつきりの月が浮かんでいるだけ。

現実を受け入れられない。すべり台の上に座ったまま動けない。そんな私の携帯が、突然けたたましい音を立てた。

誰よ、いったい。恨めしく思いながら画面を見る。そこにはお母さんの番号が。仕方なくスワイプして携帯を耳にあてた。


「もしもし?」


想史といるときとは全然違う、自分でもびっくりするほど低い声が出た。しかもかすれている。


『あんた今どこにいるの?』


責めるような口調にイラッとする。そりゃ、あまり夜遅くに高校生が一人で出歩くのはよくない。そんなのわかってるけど、今はとにかくタイミングが悪すぎる。


「私だって、ひとりになりたいときくらいあるんだよ!」


声を荒らげると、電話の向こうのお母さんは一瞬黙った。そして、喉を詰まらせたような音が聞こえたかと思うと、ひっくひっくとすすり泣きが。


「まさか泣いてるの?」


何なのよ、鬱陶しい。普段散々朔を贔屓しておいて、私のことを心配して泣いてるなんて寒いこと言わないでしょうね。