しんと周りの空気が静まり返る。おそるおそるまぶたを開ける。手すりを握った指が、白くなっていた。手首の袖が、部屋着なのに気づいてどきりとする。さっき着替えもせずに家を出たんだ。まだ制服を着ていたはずなのに……。
上を見上げる。そこには、丸い貝のような形の月が、ひとつだけぽっかりと浮かんでいた。まるで、それが当然であるという風情で。
「うそ……っ」
ポケットの中の携帯を探す。震える手でケースの蓋を避け、ホームボタンを押した。すると。
「ああ」
日付は、9月22日。あの夢に落ちる前の日付。現実世界の日付だ。
体から力が抜けていく。ぽたりと携帯を持った手が膝の上に落ちた。
やっぱり。夢から覚めてしまった。想史が私を想っていてくれる、邪魔者の朔がいないあの素敵な世界の夢から。
夢の中で起きたことは、まだはっきりと覚えている。あれは本当に夢だったの?
初めての告白。想史のはにかんだ笑顔。夕日に染まるコスモス畑。広い背中のにおい。
ぽろぽろと涙が頬を滑り落ちる。
想史……。
こっちの想史は、私のことなんて見ていない。他に彼女がいる。夢のなかでも嫌というほどわかっていたのに、やっぱりつらい。