何かに呼ばれるように、ゆっくりとすべり台の階段を昇る。頂上にたどり着くと、目の前には月が。


「ああ……っ!」


そこには、月が二つ浮かんでいた。この前とは違う。今度は三日月だ。一方はくっきりと輪郭を浮かび上がらせ、もう一方はまるで透明のガラスでできたように薄っぺらい。暗い夜空が透けて見えている。

どうして。さっき想史と河原で見た月は、ごく普通の月だったのに。

呆気にとられているうちに、二つの月が、ゆっくりと近づいていく。


「だめ……」


この光景を見たことがある。あれはこの夢に落ちてしまう直前。ゆっくりと二つの月が近づき、ハッキリした輪郭とぼやけた輪郭を重ね合わせていく。


「待って、お願い」


月にこの声が聞こえるわけもない。ゆっくりと、そして確実に月はその輪郭を合体させていく。

震える手で手すりを握る。そして、ありったけの声で叫んだ。


「やめてえええええーっ!」


二つの月が完全に重なった。ぶわんと空気が揺れる波に、私の声の波長はかき消された。まるで嵐に飲まれた船のように大きく揺さぶられるすべり台。

お願い、やめて。これは嫌なの。舌を噛みそうな衝撃に叫ぶことすら許されず、じっと揺れが収まるのを待った。そして。