「入学したばっかなのに先生は怖いし、母親は仕事で忙しいから毎日児童クラブ、その上週四で塾やらスイミングやら入れられてさ。いっぱいいっぱいだったんだよね、俺」


そう言えばあの頃、朔が想史と遊ぶ時間がないとぼやいていたような。


「で、マジで学校に行くのが無理ってなって、親父に毎日送ってもらってて。下駄箱で帰りたいって泣き叫んでた」

「ああ……そういうこともあったね」


クラスには他にも学校に来たくないという子が何人かいた。想史はその中で最もひどかった。通学路の途中でうずくまってしまい、お父さんを困らせていたのを覚えている。


「そういうとき、クラスのみんなは優しく俺をなだめて教室に誘ってくれるんだよ。でも俺はどうしても家に帰りたくて、全力で拒否。今思うと嫌なやつだったな」

「そんなことないよ」

「そうだって。でもそんな俺を、瑠奈は最後まで待っていてくれたんだ。親父に置いていかれた俺に『だいじょうぶだよー』ってよしよししてくれて、手を繋いで教室まで連れていってくれた」


そうだっけ。想史、そんな昔のこと覚えていてくれたんだ。思い出を話す想史の顔が優しくて、暖かい気持ちになる。