「ばあちゃんちに行くとき、いつもあの橋の上を通るんだ。だから」
「そっか、だからか」
満開のコスモス畑を見ていると、何故か胸がいっぱいになってきた。このまま想史といられるだけでいい。他にはなにも要らない。
「ちょっと歩いてみようか」
「うん」
想史に手を引かれて歩き出す。咲き乱れるコスモスの中を歩いていると、まるで天国に来たみたいな気分になる。近くに三途の川っぽいもの、あるしね。
私たちは保育園の頃からの思い出を、笑いながら話した。そのときは真剣に困っていたことでも、今になったら笑い話になっていることが多い。
「小学校に入学してさ、一年のとき同じクラスだったの覚えてる?」
「うん、覚えてる。あのときの担任の先生が怖くてさ」
その人は前の年に高学年を担当していた四十代女性で、顔は綺麗だったけど早口で、まくしたてるように生徒の失敗を怒るから、クラスの中でめちゃくちゃ恐れられていた。
一年生にはよくあることだけど、想史も五月くらいから学校に行きたくなくなっちゃったんだよね。理由は『先生が怖いから。もっとママと一緒にいたいから』だった気がする。