「……あーあ」


聞きなれたアラームで目を覚ます。恨めしく思いながらそれを解除し、ベッドの中でのっそりと上体を起こした。

素敵すぎる夢だった。想史と『また明日』なんて言って別れたのに。ああ、素敵過ぎて逆に悲しいよ……。

現実では想史はあの可愛い彼女がいる。私なんかじゃ、絶対太刀打ちできない様な相手。しぶしぶ着替えて部屋を出る。


「おはよう。あれ、朔は?」


いつも私より早く起きているはずの朔がいない。普通に聞いたはずなのに、キッチンに立っていたお母さんは顔にできた全部の皺を中央に寄せて怖い顔をした。


「あんた、まだそんな冗談言ってるの? 本気だったら病院行きましょ。今日は学校お休みね」


え。そんなまさか。携帯の表示を見る。日付は9月9日。夢の中の日付の翌日。ビックリして、階段を駆け上がる。朔の部屋のドアを開けるけど、そこはやっぱり物置になっていた。

私、まだ夢の中の世界にいるの? 夢の中で一晩越すなんて、なんて長い夢なの。


「ごめん、また寝ぼけてた」


どっちが現実なんだかわからなくなりそうだわ。顔を洗ってリビングに戻ると、お母さんが財布を持っていた。