「どうしてって……俺はあなたのことよく知らないから、いきなりそう言われても困る。申し訳ないけど。それに」


泣きだしたマネさんから視線を外し、想史が見つめたのは、なんと私の方。その頬は、少し赤くなっていた。


「俺、たった今彼女できたんで」


えっと……それってもしかして……。


「瑠奈、行こう」


想史は私の手をつかんで、その場から逃げるように走りだした。背後から取り巻きの罵声に似たセリフが聞こえたような気もしたけど、詳しく何て言ってるのかはわからなかった。

近くを通っていた人たちの好奇の目を避け、想史は家の方向へ走る。運動不足の私はすぐに息が切れた。けど、想史の手を放さないで全力で駆け抜けた。


「はあ……もう誰もいないか」


いつもの朝、朔と想史が待ち合わせしている歩道の角で、想史は止まった。家はすぐそこ。はあはあと懸命に息を整えていると、額から汗が流れて目に入りそうになった。


「なあ……さっきの、本当だよな。聞き間違いじゃないよな」


私より息を整えるのが早かった想史が、顔をのぞきこんでくる。もしかしなくても、さっきの告白のことを言っているんだよね。