「ああぁ、眠かった……」


やっと全ての授業を終えたあと、大きくのびをした。バッグを持ち、穂香と下駄箱に向かう。今日は職員会議があるとかで、どの部活も休み。だからか、放課後の校舎はいつもより騒がしく、制服の人が多い。

現実では、穂香はさっさと朔と一緒に帰ったんだっけ。そうそう、穂香は家の方向が逆なんだよね。ということは、現実と同じく、ひとりでのんびり帰ることになりそう。


「じゃあね」

「また明日」


穂香と別れて、学校を後にしようとしたとき。ふと前を見ると、茶色っぽい髪の毛の頭が見えた。すらりと背が高いから、目立つ。想史だ。

人気者なのに、今日は珍しく一人。すごく違和感がある。いつも朔が隣にいたからかな。なんとなく想史の脇が寂し気に見えた。


「あ、あの、想史」


勇気を出して名前を呼ぶ。すると想史はすぐに振り向く。少しきょろきょろした後、彼の視界の下の方にいた背の低い私を見つけたよう。にこりと微笑んで、想史は軽く手を上げた。


「よっ瑠奈。ひとり?」

「うん」

「そっか」


一緒に帰ろうと言いたかったけど、言えなかった。夢の中でも言えないなんて、なんて意気地なしなんだろう。だけど帰る方向が同じだからか、私たちは自然と同じ方向に並んで歩き出す。