「ごめん。私、妙にリアルな夢見てて。やっぱり、朔なんて人間、この世界にはいないんだよね」


穂香にとって頭がおかしくなったような自分の発言を釈明しているうち、なぜかすごく納得した。
朔という人間は、この世界にいない。

つまり、この世界は朔がいない世界。今までいたところとは違うんだ。今までの世界かこっちの世界、どっちかが夢の中の世界なのかも。


「リアルな夢だ」


もう一度繰り返す。そうか、これ、リアルな夢か。だって朔は、産まれた頃から確かに十六年間も一緒に過ごしたんだもん。あっちが夢だなんて信じられない。ってことは、こっちが夢だ。

昨夜寝る前から朔はいなくなっていた。じゃあ、きっとコンビニに行ったところからが夢なんだ。想史のことでショックを受けて部屋で泣いている間に寝てしまったんだ。そういうことにしておこう。


「瑠奈大丈夫? 頭でも打ったの?」


穂香が訝し気に聞いてくる。


「ううん、ごめん。大丈夫」


首を横に振ると、チャイムが鳴った。一限目が始まるころには寝不足のせいかすでに眠くなっていた。